第二回 気がつくとまたココに居た
前にココへ来たのは7年も遡る。大学2年の夏のこと。当時サッカーチームのキャプテンをしていた。一から作ることの楽しさとかツラさとかを存分に噛み締めていた頃である。
当時、分倍河原の市民プールで監視員のバイトをしていた僕は、そこで働く高校生の子に借りた自転車でその日昼から始まる仕事の前に、なんと自宅のある幡ヶ谷からココまでシャカシャカ漕いでやってきた。隙さえあればグラウンド巡り。東京にはサッカー場が少ない。スパイクでグラウンドが荒れるから敬遠され易い。これが一番の悩みのタネだった。
関戸橋を渡ってまっすぐ行くと、京王線中河原駅前につく。ボーリング場もある。ボーリングのピンが立ってるから、そっちの方がわかり易いのだが、焼肉のたれでおなじみの「モランボン」の看板が自分にとっては目印だ。
「東京都内乗合バスルートあんない」
で調べると、ココはバスの乗り入れが結構多い。
駅前の小径をしばらく行くと多摩川の土手に突き当たる。ワクワクする瞬間だ。ココの草いきれは、気持ちがイイ。左手には橋を渡る京王線の音。目の前にはラクロスに勤しむ女子大生の黄色い声。長い土手の道を行き来する生活の音。何も邪魔するものがない。
京王線はダイヤが豊富だから、新宿からでも気軽に来れる。しょっちゅう来ようというほどではないのだけれど、どうも定期的に来たくなる場所みたいだ。幡ヶ谷で生まれ育った僕にとってより親近感が湧くのはこないだ行ってきた浅草よりもこういった「郊外」なのだ。こういうことを言うと、なんか島田雅彦みたいな雰囲気になってくるので止めておくけど、一言で言えば、少々「ユカリ」があるのだ。
自分がまだ生まれる前、両親がこの京王聖蹟桜ヶ丘駅改札口正面に喫茶店「蘭」という店をやっていた。幼い頃、何度か足を運んだ記憶がある。そして、丁度7年前にもココを訪れている。別用だったので、店には入らなかったが、その時は「在る」ということだけ確認した。そして、21世紀になった今年、「蘭」はすでに無かった。アイスクリームチェーン店の『ハーゲン・ダッツ』に姿を変えていたのである。
普段、人が自分を変えようと思ったり変えたりすることはポジティヴだ。でも、人が変わるのを見たり、町が変わってしまうのを見るのは必ずしも自分を喜ばせるわけじゃ、ない。ただでさえ東京は移り変わりが早い。時折僕は誤解してしまう。知らない町に、見たことのあるような風景が確かに自分を和ませてくれるんじゃないかと。たとえ和ませてくれなくとも、まあそれはそれで旅。あまり真面目に、思い出に対して期待せずにフィーリングで訪れるのが一番イイ。ココもそんな町の一つです。
お品書き
第一回『浅草』篇
第三回『和田堀公園』篇
第四回『権田原』篇
第五回『参宮橋』篇
第六回『桜上水』篇
第七回『大蔵』篇
第八回『門前仲町』篇
第九回『西原』篇
第十回『お台場』篇
第十一回『高尾山』篇
第十二回『分倍河原(前編)』篇
第十三回『分倍河原(後編)』篇
第十四回『渋谷区本町』篇
第十五回『初台』篇
第十六回『善福寺川緑地』篇
第十七回『九品仏』篇
第十八回『等々力渓谷』篇
第十九回『笹塚』篇
第二十回『幡ヶ谷』篇
第二十一回『代々木』篇
第二十二回『谷中』篇
第二十三回『巣鴨』篇
第二十四回『雑司ヶ谷』篇
第二十五回『明治神宮外苑』篇
第二十六回『光が丘公園』篇
第二十七回『立会川(品川区)』篇
第二十八回『高井戸・浜田山』篇
第二十九回『日野』篇
第三十回『日野橋(前編)』篇
第三十一回『日野橋(後編)』篇
第三十二回『夢の島マリーナ』篇
第三十三回『京王永山(前編)』篇
第三十四回『京王永山(後編)』篇
第三十五回『根津』篇
第三十六回『石神井公園』篇
第三十七回『表参道(同潤会アパート)』篇
第三十八回『京王多摩センター』篇
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